留学体験談 小西 由里絵(留学時3年生)
【留学先学校名】
・Uldum Højskole (2012 年8月~2013年 6月)
私は2011年8月から2012年の6月末まで、デンマークユラン半島の中部に位置する、Uldum Højskole(ウルドゥムホイスコーレ)に留学していた。Højskoleとは成人(デンマークでは18歳以上)なら誰でも入学でき、自分の興味のある分野を学びながら、新しい人と出会い、人間として成長できる教育機関である。ここでデンマーク語はもとより、「自分で決定すること」、「文化や宗教を理解、尊重すること」、「人と人とのつながりを大切にすること」を学んだ。
私は出発前に、前半をUldum Højskoleで、後半は他の学校に移る計画を立て、その準備を進めていた。しかし、実際にUldum Højskoleで学んでいるうちに、1年の留学生活をこの学校で過ごしたいという気持ちが大きくなった。だが、私がそうすることで移行予定先の学校や他の日本人留学生に迷惑をかけてしまうと思うと、なかなか踏み切れなかった。そんな中、先生や友達が「自分のしたいことを自分で決める」ことがいかに重要かを改めて思い出させてくれ、ビザや転校キャンセルの手続きを手伝ってくれた。多くの人に心配や迷惑をかけたが、今になって自分のしたいことを選んでよかったと心から思える。
Uldum Højskoleでは日常生活のほぼ全てでデンマーク語が使われているが、学校にはアフガニスタン、シリア、ネパール、ビルマ、ポーランド、アイスランド、ブルガリア、そして日本からの留学生や移民がいた。そして私たちは独自の文化、歴史を持ち、様々な宗教を信仰している。そのような環境で暮らすことで、多くの発見や気づきがあった。例えば現在中東地域では紛争が頻発しており、ニューヨーク同時多発テロ以降中東国家のイメージは偏ったものとなっている。またイスラム教が正しく理解されていないことも多いように感じる。Højskoleで出会った中東出身の学生は、祖国で何があったのかを伝え、イスラム教の真の価値観や考え方を示してくれた。私のなかにあった中東やイスラム教へのイメージは、無知による一方的な見方だったと反省した。無知であると、無意識のうちに偏見を持ってしまう。それに気づいてからは、積極的に紛争の歴史的な背景や宗教問題を知ろうと思うようになった。異文化を「理解し、尊重すること」、これは実際に共同生活をしたからこそ、得られた貴重な経験である。
Højskokeは人間形成を目標におく教育機関であるため、テストや進級はない。そのため時間割にゆとりがあり、自由時間が多かった。その中で、将来や自らについて考えたり、自分の興味や関心のある事柄を学んだりする時間があった。また友達や先生とのおしゃべり、ぼんやりする時間も、勉強やバイトに追われていた日本での生活とは大きく異なる有意義なものであった。デンマーク語にhyggeという言葉がある。日本語に直訳する言葉がないのだがあえて訳すとhyggeとは「人と人とのふれあいから生まれる、温かな居心地のよい雰囲気」である。友達や先生、近隣の住民や家族とゆったりと話すこと、これは人生を豊かで充実したものにするために必要だと思う。これまでバイトや勉強を言い訳にしてあまり重要視してこなかった、人と人との対話やつながりの大切さを実感した。
私の11ヶ月の留学生活は本当に多くの友人、先生、そして家族に支えられた濃く、充実したものであった。言葉が分からず孤独を感じたことや、他の日本人留学生と自分を比較して落ち込んだことも何度もあった。しかし、そのたびにいつも誰かに助けられてきた。デンマークで出会った人々は、私の伝えたいことを一所懸命理解しようとしてくれ、ゆっくり分かりやすい言葉を選んで話してくれた。そしてたくさんの「デンマーク」を経験できるように尽くしてくれた。帰国した今、留学当時のことを思い出して、できることならもう一度体験したいと心から思えるほどだ。この一年間のデンマークでの留学生活は、私の今後の人生に大きな影響を与えると思う。