留学体験談  「フォルケホイスコーレへの留学」  井上みゆき(留学時3年生)


 

   

【留学先学校名】
・Brandbjerg Højskole (2011年3月~2011年6月)
・Egmont Højskole (2011年8月~2011年12月)


 私は3月から12月にかけて、2つのフォルケホイスコーレに留学しました。この留学には「デンマーク語を学ぶ」というひとつの目的があったのはもちろんのことですが、それ以上にたくさんのことを知り、感じ、学ぶことのできた貴重な経験だったと思います。


 フォルケホイスコーレの授業やイベントは、どれもとても面白いものでした。スポーツではカヤックや11時間にも及ぶトレッキングに挑戦し、サーカスの授業ではジャグリングから芸の見せ方までを習い、実際にサーカス団として舞台をしました。瞑想の授業では(かなり苦戦しながら)人の心理や世界観について議論し、絵画の授業では実際にヌードモデルを招待してデッサンをしました。また、あるイベント週間では「健康と生活について」と題し、健康組と不健康組に分かれて生活しました。不健康組に配属された私は、1週間食事の一切をファーストフードで過ごすことになり、週の後半はだいぶ苦しい思いをしたことを覚えています。実際に生活してみて、意外にも異なることより同じであることを感じる方が多かった留学生活ですが、あの1週間だけは日本にない無茶さ加減を感じながら生活していました笑。また私自身、最初の学校では1つイベント企画をやらせていただき、学校の生徒全員に日本の寿司や和菓子、お吸い物を振舞いました。キッチンにサーモンを頼んでおいたら当日魚ごと出てきたり、学校が炊飯器を購入してくれることになり、友達とアジアショップに行くと「これならたった20分で日本米が炊ける!」という、米を主食とする我が国にもない技術を持つ炊飯器が出てきたり。寿司作りメンバーを募集し、当日はデンマーク人に寿司を作ってもらったのですが、途中から「これがおいしい」とそれぞれが個人的にマヨネーズやスパイスを入れだして、後半は”日本の”寿司ではなくなっていたり…。大変なことがたくさんありましたが、とても楽しく交友関係も一気に広がったイベントで今では良い思い出です。


 また実際に生活することで、デンマーク人の考え方や在り方を実感として知る機会にも多く恵まれました。何より印象に残っているのは、9月に行われた選挙です。私は後半を障害者と健常者が共に生活する学校で過ごしたのですが、選挙前には各政党が自分たちの掲げる福祉政策をもって学校に来て演説し、そうでなくても周りは選挙の話でもちきりでした。日本でいうワールドカップに匹敵する盛り上がりように、国民の幸福度が高い政治をする国では国民はこうあるのかと、非常に考えさせられました。同じく後半の学校で、障害者の意思尊重をつらぬく姿勢には驚きました。良くも悪くもその姿勢は、万が一その選択で障害者が亡くなってしまっても「それは彼の選択」と言うことができる強さを持っていました。そうした大きな話にせずとも、普段の生活のあちこちで「自己責任」、「自立」の考えが浸透していることがうかがえました。これは私がデンマークのなかでも特殊な学校に行ったために感じられたことかもしれません。そうした一方で、いろんな国の生徒で集まって話をするのも面白かったです。特にデンマーク人のいないところで話すデンマークについての話は賛否両論。正直言ってデンマークを良いイメージでしか捉えていなかった私としては、とても興味深く面白いものでした。


 そして最後、この留学で何より価値があったのは人との出会いです。学校の友達はもちろんのこと、迷っていたら声を掛けてくれた人、家に招待してくれた人、そこから飲みに行った人…。特に学校と学校の間の2ヶ月間、私は人の優しさと親のお金で生きていました。初対面にも関わらず非常に世話を焼いてくれ、親切にしてくれた人の多くが「自分が海外に行ったときに、こうして助けてもらったのだ」と話していました。この留学中、出会ったすべての人に感謝しています。私も少しでもこの恩を誰かに返していければと思っています。正直私は(特に自分が話す点において)デンマーク語がそれほど上達したとは思っていません。しかし最初に私が思い描いていたものとはまた違った形で、そして思っていた以上に、留学は有意義で貴重な時間になったと思います。多くの選択肢があるなかで私がデンマーク語という言語を選び、今こうした経験ができたことをとても嬉しく思っています。