大野徹『現代ビルマ語入門』泰流社,1983年、pp.1-2より。
ビルマ語は,ビルマ連邦社会主義共和国(サイト管理者注:現在の国名はミャンマー連邦)の公用語として,3,300万の人々によって話されている。系統的には,チベットからヒマラヤ山麓,アッサムを経てビルマへと,北西から東南へ伸びる帯状の地域内で話されている多くの言語と共に,チベット・ビルマ語族を構成するとみられている。
ビルマ語がひとつの言語として客観的に取り扱われるようになった最初は,明時代から清時代にかけての中国で,四夷館,四訳館とよばれる役所においてであった。当時使われていたビルマ語の語彙が,華夷訳語緬甸館雑字という名称のもとに今日まで残されている。
一方,ヨーロッパ人のビルマへの進出は,イタリア(15世紀),ポルトガル(16世紀),オランダ(17世紀),イギリス,フランス(17-18世紀)の順で行われたが,このうちビルマ語を記録に残した最初の人はイタリア人の宣教師メルキオーレ・カルパニで,"Alphabetum Barmanorum"という題名のその著書は1776年ローマで刊行されている。
ビルマ語の文法書は,その後も,A. Judson: A Grammar of the Burmese Language, Rangoon 1888; A.M.H: Grammaire Birman traduite de l'anglais suivie d'essais de traduction birmane et de note et tableaux, Paris 1875; Louis Vossion: Grammaire Franco-Birmane d'apres, A. Judson, Paris 1889; Lonsdale A. W: Burmese Grammar and Grammatical Analysis, Rangoon 1899 などのように何冊か刊行された。
現在では,英,米,仏,独,ソ連,中国の各国でビルマ語の研究が行われている。我が国では,大阪外国語大学ビルマ語学科と東京外国語大学インドシナ語学科の二か所で,ビルマ語の教育,研究が行われている。
藪司郎「ビルマ語」『言語学大辞典』三省堂,1992年,p.567より。
東南アジア大陸部,イラワジ(Irrawaddy)川流域の平野部を中心に,ミャンマー(ビルマ)のほぼ全域にわたって通用している言語。話しての人口は3,997万人(1988年推計のミャンマーの全人口)弱で,母語人口は,その5分の4弱とされる。ミャンマー国民の共通語であり,ミャンマー国の唯一の公用語である。以下,言語名は「ビルマ語」とする。
シナ・チベット語族,チベット・ビルマ語派,ロロ・ビルマ語群(あるいは語支)に属する。チベット・ビルマ語派を構成する言語のうち,チベット語とならんで,多くの話者人口と,古くからの豊富な文献を有する有力な言語である。11世紀後半ないし12世紀初頭に,インド系のモン
(Mon) 文字に範をとって考案された,ビルマ文字(最初は方形,のちに円形)によって表記される。