英語とデンマーク語


S.K.(留学時3年生)

【留学先】
・Rønde Højskole(2023年8月~12月)



「こいつは何を喋ってるんだろう。」私は途方に暮れていた。ルーミーであるメキシコ人は英語で私に何かを聞いてくる。数回聞き返して理解した。どうやらシャワーの使い方を聞いているらしい。残念ながら私も知らない。“わからない”といいたいのはやまやまなのだが、悲しいかな英語が出てこない。出てくるのはこの場で役に立ちそうもないデンマーク語だけである。数秒の沈黙の後ようやく英語を思い出し、わからないと伝えた。メキシコ人は英語が通じなさすぎる私に少々あきれた顔をしてその場を離れた。今思い返すと彼の性格上そういうことを思っていたわけでもなく、そんな顔をしていたわけでもないだろう。単なる私の被害妄想である。慣れない土地で神経が過敏になっていたのかもしれない。もしくは私の英語のできなさのせいで。

 私はRønde højskoleで半年ほかの留学生とデンマーク人に囲まれて生活していた。なぜかは知らないがこのホイスコーレは留学生が多かった。ドイツやアメリカはもちろん、コロンビアやケニア、ネパールなど世界中から学生が数十人集まっていた、上記のエピソードでお気づきの通り私は留学生というものをさっぱり想定していなかった。“デンマークに行くのだからデンマーク語をやっておけばいい”それくらいの感覚でデンマークに降り立った。そんな人間なので最初はデンマーク語より留学生との英語に苦労した。聞き取りはまだどうとでもなるのだが会話ができない。デンマーク語と英語が混ざって仕方がなかった。デンマークにおける私が英語で一番発した文章はおそらく’Sorry, I often confuse Danish with English.”である。

 それならデンマーク語ができたのかというとそんなことはない。こちらは英語とは逆にさっぱり聞き取れない。聞き取れないので会話にならない。デンマーク語で聞き返し、デンマーク語の返答を聞き、仕方がないので英語にしてくれと頼む。これが日常的になりつつあった。あまりにも聞き取れないため、英語でしゃべってくれないかなあと思ったことが何度もある。デンマーク語を理解しに来たにもかかわらず。

 このように書くと私の留学がひどいもののように感じるかもしれない。実際はそうでもない。もちろん私が語学に苦労したのは事実である。しかし慣れてくると多少デンマーク語と英語の区別もましになり、デンマーク語も少しは聞き取れる単語が増えた。周りは優しい人ばかりだったので私の英語とデンマーク語にもニコニコとしながら対応してくれた。もちろん語学だけではない。ある課外活動でデンマーク人に紙飛行機の作り方を教えてくれと頼まれた。別に器用な人間ではないので私も調べ調べ彼に教えた。何とか二人で作り終え飛ばしてみる。すると思っていたより紙飛行機は風に乗って飛んだ。不器用な人間が教えてもどうにかなるものだ。すると彼がハイタッチをしてきた。ハイタッチを返した時、”デンマークに来てよかった”と初めて思えた。つまり言語がそれほど関係ないところでようやく楽しさというものを理解したのだ。

 これから留学をする人は安心してほしい。“I don’t know”が出てこない人間でもどうにかなった。さらに言うと私は留学先で不注意によりスマホをぶっ壊したが何とか日本に生還している。アドバイスなんてものができるほどデンマークにいたわけでもなく、デンマーク語や英語ができる人間ではないが、一つだけ。デンマーク語を勉強しに行くにしても英語はやっておこう。デンマーク語を理解するのにも役立つから。